書籍文献 2

CORYDORAS(コリドラス)
Tropical Fish Collection 1. 後藤 正生. 1994, 第4刷1999.
(株)ピーシーズ 132pp. 東京.

日本で発行された最初のコリドラスの単行本である。
トロピカル・フィッシュ・コレクションの第1冊目として発売された。

プロカメラマン集団であるピーシーズの制作だけに、カラー写真はきれいで、種の特徴をよく表しているし、レイアウトも見やすい。写真集としては結構な出来だと思う。
しかし、このシリーズの本来の目的からすれば、写真集ではなく、図鑑としての役割が求められる。読者は、この本を写真集として購入する訳ではないだろう。

当然図鑑としての内容が期待されるが、残念ながら内容があるとはとても言えない。写真の方はともかく、種ごとの解説は、統一性が無く、内容も不正確、類似種との比較解説も少なく、あっても思いつきのような説明ばかりである。種類の査定も明らかな誤りが散見される。珍コリ・コレクションが専門の後藤氏に、それ以上のことを期待することが、そもそも無理なのであろう。しかし、出版されれば儲かるのは御本人達であろうから結構なことだが、それを信じ、迷う読者はいい被害者である。

ピーシーズのこのシリーズは、多くがこのレヴェルであり、全面的に信用に足る物はほとんど無い。確かに、日本で熱帯魚に関してしっかりした出版物を出すことは大変ではある。しかし、一般の人から金をもらい飯を食うつもりなら、多少の覚悟は必要だろう。研究機関の専門家の協力も仰がず、手前勝手な本を出版したのが、本書であろう。こういったことの弊害が、今の日本のアクアリストの中には満ちあふれている。

1999年に第4刷が出版されたが、後半に新着の魚を加えただけで、本として手を加えたわけではない。残念ながら、コリドラスに関して日本語で書かれた単行本は、今のところ本書しかない。洋書と違い文章を読めるため、なおさら始末が悪い。\2800

Cichlid fishes of the Amazon River drainage of Peru.
S.O. Kullander, 1986. Swedish Museum of Natural History. stockholm, Sweden.

ペルーのアマゾン流域に生息するシクリッド類の論文である。
多くのシクリッド関係の論文に引用されながら、国内で入手する事は出来なかった。仕方が無いのでスウェーデンの自然史博物館にまで手紙を書いて入手した一冊である。まだ残部があったので送ってくれたのである。もう10年以上も前のことである。

これに紹介されたシクリッドは4新属、18種類にも上る。ブジュルクイナ、タフアンティンスヨーア、ヒプセレカラ、ラエタカラなどは、全てこの本で新属として記載されたものなのである。アマチュアに人気の高いアピストグラムマも、クルツイー、ウルテアガイ、ユルエンシス、パヤミノミスが新種として記載されている。

アピストを語るとき、この書籍を読まずして正確なことなど言えないのである。近頃、アピストに関して色々な雑音を聞くが、その発信者は恐らくこの書籍を調べてなどいないだろう。ただの想像で物を言っているに過ぎない。私としては、細かいコメントをする時間も経験も無いのでほってあるが、何かと五月蝿い事である。

CHARACOIDS of the world.
J.Gery, 1977. T.F.H.Publication,Inc.Ltd. U.S.A.

カラコイズとは、カラシン亜目魚類の総称である。
カラシンの分類は、研究者によりまちまちで、著者のジェリーはカラシンという語を、亜目という分類体型に据えている。この本の題名は、既に、彼のカラシン類に関する考え方を表しているのである。

しかし、現在では、この考え方はどちらかといえば少数派に属する。カラシンは既に亜目から目に格上げされ、論議される事が多いからである。 この本は、カラシン類についてアマチュアが手に入れることのできた、本格的な総説である。大変便利な本で、種類を調べるときには大変役に立つ。もちろん論文が読める人でなければ役には立たない。

ただカラー写真も載っているのでそれを手立てに見当をつけることもできない事は無い。しかし残念ながらそれがこの手の本の落とし穴で、内容と写真が一致しているとは限らないのである。既にいくつかは誤った写真を掲載している。T.F.H.という出版社は、こういうズルをしばしやらかす。内容を読まなければ正確なことは分からないのである。

ちなみに、珍カラの代表であったコペランディーは、この本にも載っているが、写真はいわゆる日本のアクアリューム書籍で紹介されているコペランディーとは全く別の種類である。解説を読んだところでは、写真とほぼ一致する。それでもまだ正しいとは言えないが、少なくともジェリーの考えを支持するなら、本当のコペランディーはいわゆるコペランディーとは全く別物であると言える。
こんなに便利な本だが、現在絶版で、古本以外では入手不可能である。

rasbora
A revision of the Indo-Malayan Fresh-Water Fish Genus Rasbora, with color photographs.
Dr. M. R. brittan.
T.F.H.Publications, Inc. U.S.A.

この本は元々、マニラの科学技術研究所から発行されたものである。
1954年にコイ科魚類ラスボラ属の総説として出版された。その時はwithからの題名は付いていなかった。東南アジアのコイ科魚類ラスボラ属を研究するに当たって、これに当たらなくては話しにならない重要な文献である。

これを、T.F.H.がカラー写真を付け足し出版したものである。であるから、カラー写真と中身とが全て一致するとは限らないと思われる。その点は心配であるが、手に入りにくい書籍を、一般向けの出版社が買い取り販売する事は結構なことであると思う。

研究論文であるので、字がほとんどであり、中身を読まなくては意味が無い。現在ではかなり研究が進んでおり、学名などは使用できないものもある。しかし、このグループの研究の歴史を見れば、重要な一冊であることに変わりは無い。

爬虫・両生類情報誌 隔月刊 クリーパー 発行所:クリーパー社 定価950円

現在発行されているアクアリューム関係の雑誌類の中で、最も信頼のできる雑誌である。
信頼は、雑誌の名前ではなく、本来、原稿を書く筆者によって作られるものである事を考えると、この雑誌は信頼できる研究者により執筆されている事が大きなウエイトを占めている。

飼育記事に関しても、ただのマニアの記事ではなく、それなりに学力のある飼育者により書かれている。これは、文章を読めば分かる事だが、何より具体的証拠(データ、その他)の裏づけにより、書かれている事でも察しが着く。

本来、アマチュア向けの雑誌であっても、執筆は専門家が書くのが当然と考えているが、現在のアクアリューム雑誌を見ると、とても書くに耐えない著者ばかりが目立っているようである。フィッシュマガジンに執筆している密輸業者松栄孝や、アクアライフ、アクアウエーブなどに執筆している松坂實などは、その好例であろう。

これらの雑誌が、読者のための雑誌に生まれ変わる事など望むべくも無い。
その中にあって、「クリーパー」は小さいながらも、一際目立った存在であると思う。

The Aquarist's Encyclopaedia
Gunther Sterba 1983.
Blandford Books Ltd. U.K.

もともとこの分厚い事典は、1978年ドイツで発行されたの物である。
とにかく便利な書籍で、ちょっとした疑問なら、ほとんどのものに答えてくれる。
分類に限らず、アクアリューム作成に関するヒントを与えてくれる。

内容は多少古く、日進月歩の分類学から考えれば、そのまま鵜呑みにすることは危険であるが、目安をつけるには便利である。動物だけでなく植物(水草)についての解説もある。
とにかく当たりをつけるには便利な書籍である。
現在では、古本でしか入手できないが、比較的手に入れやすい。

RAINBOWFISHES of Australia and Papua New Guinea G.R. Allen and N.j. Cross. 1982. T.F.H.Publications,Inc.

オーストラリアを代表する魚類分類学者アレンの表した、オーストラリアとパプアニューギニアに生息するレインボウフィッシュの総説である。
代表するメラノタエニア属だけでなく、プセウドムギル、グロソレピスなど、他属についても細かく解説されている。

ほとんどの種が、美しい生時の写真で紹介されており、生体を査定する際に大変便利である。生息地の写真も合わせて掲載されており、フィールドの様子を知るのにも役立つ。

これからの図鑑を象徴するような出来に成っている。もちろん、研究者であるアレンが著者であるから信頼できるのであって、写真ばかりが目立ち中身の無い、日本の熱帯魚図鑑とは次元の違うものである。 この本では、メラノタエニア・エアカネンシスが、新種記載されている。

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