濾材について

アクアリュームでは、極端に少ない水量で、多くの魚を飼育する事になる。
広大な海や湖、川などと比較し、1尾当たりの利用できる水量は極端に少ない。
魚を飼育することは、飼育水を維持管理することだから、当然、水を濾過し常にきれいに保つ必要が生じる。
そこで濾過をするわけだが、水をきれいにするためには濾材を通して水を変化させなければならない。

ここでは、濾過の基本的仕組みなどには言及しない。水がきれいになる、物理的仕組みや生物的作用にも詳しくは言及しない。これらのことは、どこの書籍、HP見ても書いてある。それらを参考にすればよい。

ここで述べるのは、より具体的な、濾材についての基本的考え方である。
残念なことに、この考えは、プラゼール水生生物研究所の理念とするデータに基づいた理論に立脚していない。
その証拠は、これらの考えを基に、これから証明していく過程で作られなくてはならない。
従って、ここでの話は、いわば仮説の域を出ない事を、あらかじめお断りしておく。

濾材に良し悪しはあるか?
まず、良い濾材と悪い濾材とは、どの様なものかを考えなくてはならない。

良い濾材とは・・・
飼育生物の健康状態を良好に維持する事が、長期間にわたって可能である。
さらにその様な環境(水質)を作り出すことが、素早く出来る。
この2点であろうと考える。他にも思いつくことはあるが、基本はこの1.に書いたことであり、さらに言えば2.に書いたことを付け加えたいと思う。それに対し、悪い濾材とは、この様なことが出来ない、もしくは出来にくい濾材のことである。

濾材と濾過細菌(濾過バクテリア)
水質を良好なものにし、安定させているのが濾過細菌である。
濾過細菌こそが、水質悪化から魚を守る最も重要なものであると言っていい。
従って、この細菌類の繁殖を促すことこそが、良い水質維持の為には必要と考えられる。
では、濾過細菌はどの様な場所に成育するのか。

簡単に言えば、どこにでもいると考えて良い。
底面の砂はもちろん、ガラス面、水草、流木、装飾品、魚体、水中にも存在している。
中でも最も多く繁殖しているのは、水中などではなく、固体の表面である。
表面積の多い基質の方が、多くの濾過細菌を生息させることが出来ると考えられている。
最近雑誌の広告で、問題は単なる表面積ではなく、細菌の住める大きさの穴がどの位あるかが問題なのだ、という話を目にした。
ごもっともな話だが、その濾材が細菌の繁殖に有益な穴を多数占めているとしても、ゴミなどで塞がれてしまった時など、どう考えたら良いのだろうと思ってしまった。そんなに、他の製品と違うのだろうか?疑問である。

表面積を多くするには、形を球形でなくすることが有利である。
しかし、先ほどの濾材にある細菌の住みやすい穴の数を問題にするなら、簡単に外見だけで判断することは出来ない事になる。
しかしこれは肉眼では分からないため、購入者には判断できない。従ってメーカーの宣伝を参考にすることになる。
果たしてそれが信用に足るものなのだろうか。どんなにそれらしい証拠を宣伝されようと、私はそれらを信用に足るものとは思わない。ではどうしたらよいのだろうか。方法が無いわけではない。それは魚自身に聞いてみることである。

水質条件(環境)がその濾材を使用することによって、どの様になるかを調べてみることである。そして魚が、どの様になるかを観察することである。メーカーの宣伝など信じるより、それの方がよほど本質的方法だろう。
だがそれをするアクアリストはほとんどいないと思う。メーカーの宣伝を鵜呑みにすることしかしないし、出来ないのである。残念ながら、これが今のアクアリストの現実であろう。

この問題はさておき、より現実的な濾材に関する考え方を示したい。
濾材の形状を考えるとき、その表面積が重要であることは疑う余地がないと思う。仮に有効な穴の数が問題だとしても、濾材の表面積は多いに超したことはないからである。問題となるのは、それらが市販されている現実の濾過器に使用したとき、本当に理論通りに機能するかである。水槽での飼育は、その水量に対して、飼育生物が圧倒的に多い。伴う餌の量、排泄物の量なども非常に多い。主たる濾材の上に敷くマットなどの汚れ具合からも、その事は実感される。

従って、濾材には、取りきれない多くの有機物(排泄物)が、そのまま引っかかり、そこに細菌類が繁殖し、いわゆるヘドロ(バクテリアフロック)が作られる。濾材は、その汚れ具合により洗浄されなければならないが、十分に機能させるには、この様なヘドロをある程度落とさなければならない。
目に見えるようなざらついた濾材には、多くのヘドロがくっつき、それを落とすにはかなりの労力を必要とする。さらに、この様な形状の濾材に汚れが付くとその場所には水が通りにくくなり、ほっておけば水道(みずみち、水が流れる特定の場所)ができ、濾過効率は著しく落ちる事になる。良く知られるように、濾過細菌は好気性細菌であるから、十分に酸素が供給されていなければならない。水は流れなければならず、停滞しては効率が落ちる。そこまで汚れない内に洗浄するなら、濾材の持つ能力が十分に発揮されないことが考えられる。
良い濾材の条件としてあげた、長期にわたって効果が続く、ということに反する。この様なことを考えると、現実に使用する濾材として必要な条件は、ヘドロなどが引っかかりにくく、洗浄したときに素早くきれいになり、元の能力を取り戻すことである。その形状の表面積が少なくとも、濾過器全体に水が回り、総量では表面積を拡大できる方が管理面でよほど有利である。さらに大きさは、表面積を稼ぐため小形の物が有利である。とするなら、濾材の形状は不整形のざらついた物ではなく、球形に近いサラッとした多孔質のもので、大きさにばらつきが無く、小さく、均等な物である事になる。もしそれが濾過細菌の繁殖しやすい大きさの穴を多数持つなら、最高である。

この理想に近い濾材がある。それは砂である。しかし砂は重い。市販の安い濾過器、特に上部濾過器では、濾過槽が変形してしまう。また、掃除の時の運搬に不便である。この短所を直すために、軽石などが使用されている。さらには、人工的に作られた細かく均一に出来ている軽いセラミックなどが最適であろう。さらにその価格が安価なら言うことはない。市販の上部濾過器のように、濾過箱の容積が少なく、多くの濾材を入れられない器具でも、高性能の濾材を使用することにより、手数をかけることなく、より良い安定した水質を実現することができるだろう。

現実に販売、使用されている濾材を考える。
正確な調査をしたわけではないが、アクアリストに使用濾過器と濾材を聞いてみると、初心者は上部濾過器を、ベテランになると外部濾過器を、特に密閉型濾過器を使用しているケースが多いようである。濾材については、多くの人がリング状濾材を使用しているようである。これは恐らく、メーカー側の高価=高級=高性能という宣伝が効を奏してのことと思われる。なぜリング状濾材なのかという基本的問いかけがなされているとは思えない。

リング状濾材の特徴は、大形であり中空であるために水の停滞が無く、表面積の拡大に役立っているという事があげられる。これは密閉型濾過器と組み合わせて使うには非常に具合がいい。密閉型濾過器は水場のない室内での使用には便利であり、使い勝手も良く、見た目の高級感もある。従ってそれら副次的要素により使用するベテランが多いのもうなづける。前述したように、濾過性能は濾過器と濾材との組み合わせで考えられるものだから、この種類の濾過器を使用したいのなら、リング状濾材の採用は理にかなっていると言えるだろう。

何しろ密閉型濾過器の短所は、ゴミなどで詰まりやすく、一度詰まれば全てセッティングをし直さなくてはならない所にある。また、空気に触れる事がないため、好気性である濾過細菌の繁殖がしにくいという大きな欠点がある。それをカヴァーするためには、どうしても濾過槽内を流れる水を滞らせることなく、スムースにする必要がある。
詰まりやすい細かい濾材は、モーターに負荷をかけ寿命を縮め、さらには濾過能力の低下を招くことになりかねない。それを防ぐためには、どうしても大粒の濾材を採用するしかないのであろう。勿論、濾材の粒径が大きければ表面積は大きくなるが、容積当たりの表面積は、多くの濾材が入れられないため、逆に小さくなると考えられる。この欠点を補うためには、大きな濾材の表面積を、より拡大するより方法はない。そこでこの濾材の中身をくりぬき、リング状にしたのではないだろうか。リング状濾材は、いわば密閉型濾過器を使用するための、苦肉の策であるような気がする。

この形状の濾材は、各種メーカーから発売されており、ブームによってシェアに大きな偏りがみられることがあった。かつてはシポラックスというガラス製の製品が人気を博し、現在では、パワーハウスという製品が非常に売れていると聞く。特にパワーハウスは、そこにPHの安定性をうたった製品であり、本当なら非常に画期的なものである。もちろん筆者はそんなことを信用してはいないが・・・。

良い濾材であることを聞けば、だれでも使用してみたくなるのは自然である。初心者が濾過の必要性を説かれ、売れている製品を買おうとするのも無理からぬ事である。しかし、これまた前述したように、初心者の多くは、セット売りの濾過器を使用するから、濾過器は上部となり、濾過箱は小さく、多くの濾材は入らない。 おまけに分厚い濾過マットがついてくるから、それを入れてしまうと、益々濾材の入る余地はなくなってしまうのである。そこに、評判のリング状濾材など入れようものなら、ほとんど濾材は入らないことになる。故に、濾過面積は減り、濾過能力も減るのである。上部濾過槽に大粒のリング状濾材を入れることの愚かさは、この様な理由によるのである。

それでは上部濾過器に使用すべき濾材は何であろうか。
これも前述したが砂で良いのである。しかし重い、ならばセラミックなどのいくらか軽い濾材で、小粒の物を使用する。狭い容積で最大の濾過面積を確保するためには、小粒でなくてはならない。濾過器によっては濾過箱の下のすのこのスリットが大きいため、細かい濾材が載らないことがある。その際には薄い網を使用する。
プラゼール水生生物研究所で使用しているグラスファイバーネットは最適である。最上部には細かい濾材のゴミ詰まりを防ぐためにマットを敷くが、なるべくなら薄目の物がいい、理由は多くの濾材を入れたいためである。残念ながら、市販のマットは皆厚く使用しづらい。このマットをあまり汚れない内に替えるようにする。上部濾過器は密閉型と違いマットの交換は簡単である。
以前相談を受けていたときは、園芸店で売っている素焼き鉢をたたき割ってそれでも詰めておけばよいと言っていた。ただし実験したわけではないので、そう強くも言えないし、実際試したお客さんもいなかっただろう。結果は恐らく市販の濾材と同様だろうと思う。

理想的濾材はあるのか。
以上述べてきたように、安定した良い水質を保つための濾過器は濾材との組み合わせでその真価を発揮するのであり、一般に良いといわれている濾過器や濾材が、本当に優れているかどうかは、飼育者がこれらについてどの様に考えるかにかかっているのである。
その考え方の一つをここでは具体的に紹介した。それでは理想的濾材は存在するのか。現在の所、残念ながら存在してはいない。しかし近い物は出来ている。バイオボールと呼ばれる商品がそれにあたる。この商品については現在実験中であり、格段に優秀であるという証拠はない。それでも期待はできる。なぜなら、この濾材は、今まで述べてきたような条件の多くを満たしているからである。おまけに水中では水を含み重くなるため、フレンド2などでゴミを吸い出す際にも、浮き上がってこないので便利である。これには濾材が球形であることが関係していると思われる。不整形の粒子に比べ、球形の粒子は周囲の水抵抗が圧倒的に弱い。従って吸い上げる力に反して、水底に自重で沈んで行くのだろうと推測される。その事により、ゴミだけが効率よく吸い上げられるのである。要するに掃除が簡単でゴミが残らないのである。

濾過細菌だけでは水は維持できない。
濾過細菌が飼育水を作っているわけだが、それだけでは長持ちしない。なぜならどうしても硝酸塩が蓄積し、水は極端な酸性に偏ってくるからである。これを防ぐためには色々な方法があるが、その一つは脱窒作用を利用することである。要するに硝化作用の逆の働きを起こさせ、たまった硝酸塩を元の窒素に戻すのでる。
この研究は実際多くの実例があり、水質浄化作用の切り札のような扱いを受けている。その多くは汚水処理技術であり、飼育水の濾過に応用されることはまれである。過去にはそれに関する商品も販売されたが、実際に使用して、目に見えた効果があったかどうかは疑問である。この技術は、確かに理論面では間違いないが、扱いは難しく理論通りにはいかないようだ。おまけに器具が複雑になる。

もう一つは、PHの維持をうたった物である。確かにPHの極端な低下は飼育生物にとって好ましくない。それを望ましい値に安定させる事が出来れば、飼育には好都合である。アマチュアの多くは、水質を聞かれると「PH」と答えるように、この言葉に過剰に反応する。それをうまく使った宣伝が功を奏している。本当に濾材でPHの維持が出来れば、それはそれでまことに結構なことではある。
しかしそれは難しい。実際には濾過細菌の方が比べ物にならないくらい、遙かに強力である。PHを維持するには、細菌によって偏ったイオン濃度を、濾材の働きで元へ戻すわけだから、濾材から水質の傾きに応じたイオンが溶け出さなくてはならない。要するに、濾材自体に始めからイオンを溶け出す仕組みが備わっていなくてはならないわけである。セラミックなど、焼いた濾材にその能力があるとは思えないのだがどうだろう。盛んに使用されている「パワーハウス」なる商品は、それをうたい文句にしているようだが、本体はセラミックだから本来水に溶け出すことはなく、PHの安定に関係するとは思えない。それに、先ほどから言っているように、水のPHを決めているのは濾過細菌であり、その強力な力の前には、多少の緩衝作用を持つ物質など何の役にも立たないと思われる。そう考えると、PHを安定させる濾材など、実際は現時点で存在しないのではないだろうか。

現実問題として、何を購入すべきか
ここに至るまで、色々と述べてきたが、実際は使用してみないと分からない。そして恐らくだが、さほど大きな違いは現れないかも知れない。濾材は、濾過細菌がいったん住み着いてしまうと(中古になってしまうと)そう大きな違いは現れないからである。ただ洗浄した後などの立ち上がりには、違いが現れるかも知れない。

今のところの結論としては、密閉型外部フィルターには小さめのリング状濾材。上部フィルターには細かめで球形のセラミック濾材を勧める。この濾材は、いくらか大粒なら密閉型フィルターに使用しても効果を期待できる。参考までに、プラゼール水生生物研究所では2m水槽をセパレーターで区切り、45cm底面フィルター(ハイドロフィルター)をセットして7cmほどの厚さにバイオボール(三美)を入れ、パワーヘッドを使用して30尾あまりの中型カラシンとコイ類を飼育しているが、十分に飼育できる。この濾材については、上部フィルターでの使用効果を実験中である。

初心者の方は、間違っても上部フィルターに大粒のリング状濾材など入れないことだ。ベテランの方は、初心者の方にその様な濾材の使用法を教えないことである。濾過能力は濾過器と濾材の組み合わせで決まることを、忘れないことである。

<戻る>